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まずKanye West及び彼のアルバム「ye」について説明したい。Kanyeが8枚目のオリジナルアルバム「ye」をリリースしてから約1年が経った。トランプ支持を意味する通称”MAGAキャップ”を被って公の場に出たり、「黒人奴隷制は選択だった」などの問題発言で世間から散々な非難を浴びた(当然のことではあるが)時期にリリースされたのが「ye」である。その発言や反響を受けてからリリックを書き直したと本人も言っているように、Kanyeのその瞬間の心情をまさに切り取ったような7曲から構成されるアルバムである。そういった短いスパンで作られたことであったり、7曲というミニマムな作りもあってか、壮大なKanyeらしいアルバムを期待したファンからの評価はお世辞にも高いものとは言えなかった。

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「ye」においてKanyeははっきり言って正常な精神状態とは言えない。アルバムのジャケットには「I hate being Bi-Polar, it’s awesome(躁鬱病は嫌だ、それは素晴らしい)」の文字。リリース直前の彼の行動からしても明らかに何かしら心に病を抱えている。しかし、これは異常なことであろうか。確かに平穏な精神状態とは言えないが、こういった感情の起伏は常日頃我々にも生じるもので、程度の違いはあれ誰しも気持ちが沈むことはあるのではないかと思う。そして今や誰もがその沈んだ心情を、何らかのイメージや文字を使って、SNSを通じて昇華しようとしているではないか。「ye」にはSNS全盛時代を生きる現代人の、SNSを通じた瞬間の気持ちの吐露であったり、時としてデータごと過去の自分を捨て去ってしまいたくなる心情を、高い技術を伴った最も高貴な手段で表現したという世相を反映した側面もあるのだ。前置きが長くなったが、4s4kiの作品はそこに通ずるものを感じるのだ。

4s4kiとは何者か

4s4ki(アサキ)をご存知だろうか。1998年生まれの21歳。2018年3月に「ぼくはバカだよ。」でデビューしたばかりの彼女は、作詞作曲から編曲までを1人でこなし、その中毒性の高い楽曲が話題を呼んでいる。「4s4ki」名義に変更してから初めてのEP「NEMNEM」がプライベートレーベルである『SAD15mag』より7月に発売されている。

現代アーティスト

先述したように4s4kiはトラックメイクもリリックも全て自身で手がけている。その技術の高さと幅はもちろん驚くに値するが、特筆すべきはやはりその世界観であろう。脆いようで芯がある、強い自分と弱い自分の混在、その複雑によって出来上がった歪な自己。そういった現代の若者が持つ様々を、高い音楽技術で表現しているのだ。海外の音楽シーンにおいても近年、トラップの酩酊的なビートに乗った自己否定感を詞にしたような楽曲が受けている。こういった背景には現代人の傾向として、強い自分だけでは生きられない、弱い自分をさらけ出す瞬間も必要な側面があり、それを身近な作品として音楽に頼る部分があるのかもしれない。だとしたら、目に見える形には表れないとしても、それを求めていた人にとっては『救い』となっているはずなのだ。

9月からは毎月4日に新曲をリリースすることが予告されている。その第1弾として新曲「欠けるもの」を9月4日(水)に配信リリースされる。この「欠けるもの」は、生まれた時から覆せない不平等さと、理性とかけ離れた不完全な自分に気づき、神様を呪った楽曲だという。今後も彼女の精力的な活動、そして「つぶやき」の一つ一つから目が離せない。