「ジャンルは人に決めてもらえれば良い」ヒップホップの枠に収まらないバンド、踊Foot Worksの音楽ルーツに迫る

「こんなにも広がらないものか。」そう笑いながら去年を振り返る姿が、想像していた彼らとは真逆で強く印象に残っている。結成直後より、ヒップホップを軸にポップでドープな要素取り入れた音楽で、多くのリスナーから注目を受ける踊Foot Works。そんな彼らの音楽は一体どこから生まれたのか。そこで今回、ヒップホップの枠だけに捕らわれない彼らの音楽ルーツに迫りつつ、注目必須のセカンドアルバムに関しても伺った。

踊Foot Works が誕生するまで

―まず始めに、皆さんの音楽活動のスタートからお話をお伺いしたいと思います。Pecoriさんのリリックを書き始めたきっかけはももいろクローバーZと伺いましたが?

Pecori:リリックもそうでしたし、曲を自分でちゃんと作り出すきっかけもももクロでした。高校時代、田舎だったので周りにヒップホップとかがまだあまり根付いていなかったんです。その中で他人と一線を画したいみたいな想いがあって、みんなが外でサッカーしている時に俺はリリックを書き溜めていましたね。

―Fanamo’さんはスタジオで働いていたそうですが、それ以前に何か音楽活動をされていたのですか?

Fanamo’:DJとかベースをやっていたんですけど、趣味の延長程度に。僕は大学卒業してからはサラリーマンやっていたんですよ。その後、スタジオで働いてみたいな。だから3年くらい楽器も何もやっていない時期があったので、オドフット結成の時にベース弾こうっていう選択肢はなかったですね。

―TondenheyさんとSunBalkanさんは、大学のサークルで知り合ったと伺いましたが?

SunBalkan:それぞれ別の大学に通っていて、誰でも入れるインカレのジャズ研の中でTondenheyとは出会いました。

Tondenhey:一緒に演奏したのも2回とか、そのくらい。当時はNothing’s Carved In Stoneかのコピーバンドをやっていましたね。

―楽器を始めたのはお2人ともサークルに入ってからですか?

SunBalkan:小学3年生くらいからピアノをやっていて。その後は親の意向もあってサックスを習っていた時期とかもあるんですけど、小学6年生くらいからベースをやっています。

Tondenhey:僕も小学校中学年くらいの頃には、既にギターでコピーをやってました。この前、その当時の動画を発見したんですけどめっちゃ可愛かったですよ(笑)

―それぞれ別々のところで音楽活動を始められた皆さんとのことですが、その後オドフットが結成されるまでの流れを教えていただけますか?

Fanamo’:僕が働いているスタジオにTondenheyとPecoriが別々に来ていて、仲良くなったのがきっかけですね。小さいスタジオだったのでお客さんも少なかったんですけど、その中でも音楽の趣味が合って。それでTondenheyとR&Bのコピーをやろうよって話になった時に、別のお客さんとして来ていたPecoriも面白そうだから参加させちゃおうってなって。

―最初は3人でどのような音楽を?

Fanamo’:ディアンジェロと韻シストとThe Rootsあたりのコピーですね。

Tondenhey:当時からPecoriのラップは特殊でした。ラッパーだけど歌うし。

Fanamo’:確かフリースタイルダンジョンが始まったのも、この時期だったよね。でも、そういうラッパーとはちょっと違うんだなって、Pecoriを見て感じてた。

Tondenhey:ラッパーじゃなかったね。“冷凍都市”とか“本能寺の変”とか、ワードが完全に向井秀徳さんって感じで。

Pecori:気に入ったワードは使っていました。完全に影響を受けてましたね(笑)

―3人でスタートさせたその後、SunBalkanさんがメンバーに加わるまでの経緯を教えて下さい。

Pecori:僕らが活動を始めてから少しして、フリーで音源を発表したんです。そうしたら、三宅さん(現、踊Foot Worksマネージャー)から「下北沢ガレージでイベントをやるんだけど出演しないか?」って連絡が来たんですよ。当時はアルバムを出したばっかりでライブをするつもりもなかったんですけど、やるならベースは生の音じゃないとキツいねって話になって。Tondenheyのツテで呼んだのがSunBalkanでした。最初の数回はサポートとして入ってもらっていたんですけど、毎回居るしってことでメンバーになってね。

Fanamo’:当時は大体、多摩とか立川とかで練習していたんですけど、いっつもSunBalkanだけ千葉から2時間半くらいかけて出てきて(笑)

Pecori:軽くやりたいくらいの感じで多摩のスタジオに呼び出して、バイブスが上がらないからスタジオに置いてあったスマブラだけ対戦相手になってもらって帰らせたこともありましたからね(笑) 軽くありがとうねって言って。

SunBalkan:マジで凄いですよね(笑) こっちは、いったい何が始まるんだろうみたいな不安も抱えながらスタジオに行ったのに、スマブラだけやらされるって。「あいつ暇だから呼ぼうぜ」みたいな感じだったんだとと思う。

Pecori:最初はメンバーっていうより、遊び友達でしたね。

SunBalkan:いや、コマにされていたんだと思います(笑) メンバー入りする前の最初のアルバムの音源は僕は1曲も弾いていなくって色んな人がベース弾いているんですよ。でも、ライブを始めるタイミングで僕だけがメンバーとして加われたので、結果的には美味しいところ取りしたなって思っているんですけどね。

Tondenhey:沢山候補が居たベーシストの中で、フィジカル的に一番強かったのがSunBalkanなんです。ライブ向きというか、バックサウンドが流れていなくても成立するベース。だから、メンバーとして凄い合っているんですよね。

SunBalkan:何、急に褒めてくれるじゃん(笑)

 

 

彼らを作り上げてきた音楽とは?

―ここからは、皆さんがどんな曲を聴いて育ってきたのか、これまでの音楽変遷をお伺いできますか?

Pecori:結構ベタですね。小学校の頃は、RIP SLYMEとかORANGE RANGEのCDを買っていて。そこで若干、ヒップホップ的な音楽を知りましたね。中学校に入ってからはギターを買って、エルレ(ELLEGARDEN)とかアジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)のコピー。中2くらいからは周りもギターを買い始めて、いかに速弾きできるかが格好いいみたいな時期もありました。そこからは、メタルも聴き始めてSlipknotにハマって。

モモノフになったのはその後の話。電子ミュージックやエレクトロが、当時の自分にとっては凄く画期的でした。当時、tofubeatsさんがももクロのカップリングに参加したり、リミックスを制作していた影響で、自分で曲を作るようになって。ももクロに振り向いてもらうために、自分でラップしてリミックスしてスターダストプロモーション(ももいろクローバーZの所属事務所)に音源を送ったりもしていましたね。未だに返答貰えてないんですけど(笑) 自分で作るようになってからは、ヒップホップに落ち着いた感じです。

Fanamo’:僕も中学くらいまでは、周りと同じように音楽を聴いていたかな。高校生の頃に凄いメロコアがブームになったんですよ。でもなんかストレート過ぎて、自分にはあんまりハマらなくて。そんな時に10歳上くらいのDJやっている人達と仲良くなって、その人達から色々音楽を教えてもらいましたね。キリンジとかフィッシュマンズとか。

大学に入ってからは下北沢のRECOfanっていうレコード屋で4年くらいバイトしてて。そこで周りからあれこれを教えてもらって、ソウル、ファンク、R&Bあたりを聴いていました。

SunBalkan:僕の場合、ピアノを始めた小学生の頃は、多分Mr.Childrenしか聴いてなかったですね。サックスを始めてからは、もちろんジャズとかを少し聴くんですけど、正直あんまり好きになれなくって。ジャミロックアイとか、聴きやすくもお洒落な音楽にハマっていました。高校に入ってバンドを組み始めてからは、デスメタルとかポストロック、インストの音楽を聴いていて。あとはPerfumeとかの電子ミュージックも。大学に入ってからは、エルレとかアジカンの王道な感じも通っています。

僕、メンバーの中で唯一、ヒップホップをほとんど聴いてこなくって。“ラップするもの”くらいな認識だったんですよ。でもオドフットに入ってからは、ヒップホップに対する認識が変わってきている気がします。

Tondenhey:親父の影響で、僕は小さい頃から洋楽が中心でしたね。ウルトラマンの曲と同時にジミ・ヘンドリックスの『Voodoo Child』っていう曲が大好きでした(笑) 高校に入ってからは、アジカンとかを聴いていたんですけど、それと同時にオアシスとかも聴いていてみたいな。

大学に入ってからは、ジャズ研に入った影響でジャズを主に。そこからディアンジェロとか、ブラックミュージックの新譜は片っ端から聴いていました。色々あって、最近は宇崎竜童さんに落ち着いています(笑)

―皆さん聴いてきた音楽はバラバラなように感じますが、その中でも共通して皆さん好きなアーティストさんはいらっしゃいますか?

Tondenhey:Chanceじゃない?

Pecori:R&Bからの派生で、ゴスペルとかを上手く現代っぽくしてるのがChance The Rapperで。SunBalkanにもヒップホップを色々と聴かせているんですけど、ハマらないものが多くて。でも、Chanceは違ったんですよね。あとはPUNPEEさんとか。だから結局、ポップが好きなんだろうね。

Tondenhey:僕とPecoriとFanamo’の3人は、違う背景がある中でも好きなものは似ていて。オドフットにとって重要なのは、SunBalkanにハマるかどうかなんですよ。

 

A Selection Of 3Songs

―皆さんのこれまで聴いてきた曲を伺わせていただきましたが、今の自分に大きく影響を与えた曲をそれぞれ3曲ずつ教えて下さい。

【Pecori】

  • MONKEY MAJIK『空はまるで』
  • BROCKHAMPTON『SAN MARCOS』
  • BRON-K『ROMANTIK CITY』

MONKEY MAJIKはキャッチ―なフックを作る上で参考になりますね。両方とも主メロでイケるメロディーがフュージョンしているハモリも凄いなって思って、結構意識しています。BROCKHAMPTONは前からハマっていて、今もなおよく聴く曲。BRON-Kは、オートチューンを使いつつもタイトなラップをする時に参考になりましたね。オートチューンの使い方が上手いんですよ。

 

【Fanamo’】

  • 山下達郎『Big Wave』
  • Donny Hathaway『Little Ghetto Boy』
  • Daniel Caesar『Get You』

山下達郎さんは父親の実家にレコードが置いてあって、高校生の頃にレコードプレイヤーを買って聴いていました。『Little Ghetto Boy』はブラックミュージックにのめり込むきっかけになった曲。同曲をDr.Dreがサンプリングしている曲もあるんですけど、それは僕がヒップホップを聴き始めるきっかけにもなっています。Daniel Caesarはちょうどオドフットを始めた2年前くらいにYouTubeに上がってきて。チルっぽいちょっと浮遊感のあるR&Bが好きで、こういうのを1曲作りたいなって、実はずっと考えています。

 

【SunBalkan】

  • 65 days of static 『Retreat! Retreat!』
  • Gallant『Jupiter』
  • Flying Lotus『Never Catch Me』Feat.Kendrick Lamar

65 days of staticは、途中歪ませて、急にシューゲイザーっぽくさせようとして、敢えてさせないみたいな訳分かんない感じ。そこら辺を新曲でも参考にしていたりします。Gallantはドラムパターンですね。どこの音を消せるかみたいな。一番盛り上がるところでベースがいないところとか、曲全体として凄い新しいものになっている印象があります。Flying LotusとKendrick Lamarの『Never Catch Me』は最初に聞いた時に衝撃でした。エレクトロニカで人間らしくないのに、1つ1つの要素を見ると凄く人間らしいんですよ。それが上手く成立していて飲み込まれちゃう感じっていうのは、僕自身も曲を作る上で意識することが多いです。

 

【Tondenhey】

  • Yes『Siberian Khatru』
  • 山口百恵『プレイバックPart2』
  • Justin Timberlake『Pusher Love Girl』

Yesと山口百恵は、次のアルバムの曲で超展開な曲を作ろうと思っていたので、その作り方を少し参考にしています。急に無音になって、そこからギターだけで戻したりとか、巻き戻しのあの感じ。Justin Timberlakeに関しては音の質感というか、厚みはあるんだけど生っぽい感じを参考にしましたね。

 

お客さん自身が判断してくれれば良い

―踊Foot Worksって、曲によって物凄い表情を変えますし、ジャンル分けの難しいアーティストだと個人的に感じています。皆さんの中で、オドフットらしい音楽はどのようなものだと考えていらっしゃいますか?

Pecori:どう見えています? バンドとかヒップホップとか、聴いてくれた人によって認識が違うんですよね。大きく括るとしたらヒップホップになると思うんですけど、そこからの反動っていうか、どこにでも行けちゃう感じがオドフットらしいところ。ヒップホップバンドっていう括りよりも幅がある。

Tondenhey:やりたいことをやっているし、好きな音楽の要素を取り込んでいる。だから、お客さんが判断してくれって感じです。

Pecori:それだわ。俺ら自身が人間としてジャンルが決まっていないから、好きなことをやったところでジャンルは決まらない。だから、人に決めてもらって良いみたいなところがありますね。

Tondenhey:この前ある人に、「オドフットって音楽やりたい人達なの?」って聞かれたことがあって。もちろん音楽やりたい人達なんですけど、それすらもあやふやに見えちゃうところも逆に魅力の1つなのかなって思います。

発売を控えたセカンドアルバムの魅力に迫る

―先日、約1年ぶりとなるセカンドアルバムのリリースを発表されましたね。まずは最初にMVが公開された曲、『GIRAGIRA NEON』について教えて下さい。

Pecori:これは春に発表するアルバムの中でも最初に出来た曲で、group_inouのimaiさんとの共作です。

Tondenhey:アレンジは僕が担当しているんですけど、聴きやすく聴きにくいところにこだわりましたね。

Pecori:この曲に関しては、フックの部分もTondenheyが歌っているよね。オドフットの曲の中には、俺が歌ってラップしているだけじゃない曲って結構あるんですよ。

―OKAMOTO’Sのオカモトレイジさんをゲストボーカルに迎えられた『GOKOH』も発表されましたね。このコラボレーションが実現された経緯は?

Pecori:三宅さんから提案があったのが去年の11月くらい。レイジ君って、ドラマーなのに凄い歌が上手いんですよ。だから敢えてボーカルとして呼ぶのも面白いねって話になって。

Fanamo’:一緒にやるのが決まってから、レイジ君が個人的にBIGBANの曲にボーカルを乗っけた音源を送ってくれたりもしたよね。あれ聴いて、めっちゃ上手いって驚いたな。

Tondenhey:あの音源って、そういうことだったの? 普通にBIGBAN本人だと思い込んでいたわ(笑)

―発売までのお楽しみだとは思いますが、可能な限りセカンドアルバムがどんな内容になっているのか教えて下さい。

Tondenhey:これ全員、自信あるんじゃないかな? 今、日本で新譜のリリースを控えたミュージシャンの中で、一番自信があるのって踊Foot Worksなんじゃないかなって思うくらい(笑)

Pecori:曲順から意図せずのストーリー性が出来上がっているんですよ。1回暗闇に沈んで、そこから上げる感じ。世界的に見ても聴いたことないです、こんなアルバム。

Tondenhey:踊Foot Worksがどんなグループなのか、もっと解読できなくなりそうだよね。

SunBalkan:なんか小さい要素1つ1つが、そうさせているのかなって思います。ほとんどFanamo’の声しか入っていない曲だったり、Tondenheyがフック歌っている曲もあって。

Tondenhey:SunBalkanがラップしている曲とかね。

SunBalkan:そう、僕1回も歌ったこと無くてずっとNG出していたのに、Pecoriが歌えって。

Pecori:でも歌ってくれるから良いですよね(笑) 結果一番良いバースになったし。

SunBalkan:そこら辺はPecoriとTondenheyを中心に、益々面白いアルバムになったかなと思います。

 

着々と積み上げている感じが楽しかったりもする

―最後に踊Foot Worksが活動を始めておおよそ2年が経ちました。これまで順調に駆け上がっている印象の皆さんですが、昨年の活動を振り返りつつ2019年の目標を教えて下さい。

Pecori:ファーストアルバムを作ったのが1年弱くらい前。そこまで良い感じで来ていたとお思うんですよ。だからこそ昨年、俺らは結構怒ってました(笑) こんなにも広がらないのかって。「こんなに良い曲を皆知らなくていいの?」って、正直不満が募りましたね。でもその分、一気に行く必要なんてないなって悟ったんですよね。着々と積み上げている感じが今は楽しかったりもする。

Tondenhey:やっと楽しめてきたよね。

Pecori:今年、セカンド出したらファースト聴いてくれる人も増えると思うし、それが楽しみですね。

SunBalkan:今年は俺たち売れるよね。

Tondenhey:今年は踊Foot Worksの存在がもっと広まるんじゃないかな。その分、着々と地道にやることも忘れずにいられたらと個人的には思うんですけど、世界中で売れるまでは「何で俺たちが売れないんだよ」ってずっと言い続けたい(笑)

Fanamo’:それ、めっちゃヤバいね(笑) 多分1年前はサクセス自体を楽しもうとしていたんですけど、2018年で現実を見ることができたんですよね。だから去年よりもっと冷静に、地に足のついた動きをしていけたらいいなと思っています。でも、アルバムのリアクションはしっかり返ってきて欲しいって、どこかで期待もしているんで皆さんよろしくお願いします!!!

 

自分達が作り上げた音楽に対して、絶対的自信を持つ踊Foot Works。彼らの売れることへの想いは、苦い1年を経験し、地道に進む楽しさを発見した後でも変わらない。

4月24日(水)には、1年ぶりとなるフルアルバムのリリースが決定している彼らは、私たちにこれからどんな音楽を届けてくれるのであろうか。今後も目が離せない。

 

踊Foot Works(オド フットワークス)

Pecori(rap)、Tondenhey(guitar)、Fanamo'(chorus)の3人により、2016年12月に始動。2017年5月にサポートメンバーだったSunBalkan(bass)が正式加入。耳の早いリスナーのみならず多くのアーティストからも注目を集め、4月24日(水)にはセカンドフルアルバムのリリースが決定している。5月3日(金)には渋谷WWW Xにてワンマンライブを開催予定。