昨年11月、日本再来日を果たした音楽家、DJのNicola Cruz(ニコラ・クルーズ)。

フランス生まれ、南米エクアドル育ちというユニークな背景を持つ天才異色のミュージシャン。日本はもちろん、今世界中から注目の的。「原始エレクトロ」という新しい音楽ジャンルを生み出し、音楽プロデューサーとしての才能も有望だ。

幼少時代を過ごした彼の故郷、南米エクアドルの先住民音楽が彼の音楽性を開花させ、原始的なラテンのリズムとメロディーを最先端の電子サウンドで表現する。日本、ドバイ、ヨーロッパなど世界をまたいだDJツアー、ライブパフォーマンスに現在勢力を出して活動している。

いま、世界のクリエイティブは「原始」に注目

インターネットの早い普及、時代はより高度なテクノロジーを日常に求めている。しかし興味深いことに、音楽、ファッション、アート、デザインなど、クリエイティブの世界では、それとは反対の「原始的」「先住民的」「土着的」と言う言葉が逆にキーワードになりはじめている。Nicola Cruz(ニコラ・クルーズ)もそんなアーティストの一人。「原始」の世界を最先端のデジタル機器と混ぜ合わせ現代にアプローチする。

デビュー作のタイトルは「ソウルに火をつける」

Nicola Cruz(ニコラ・クルーズ)のデビューアルバム「Prender el Alma」(ソウルに火をつける)。ラテン南米サウンドのオマージュとして彼自身デビューの際、自分の音楽を「アンデスステップ」と名づけ提唱した。南米の「アンデス」とドラムベースの「ステップ」がこの語源の由来なようだ。「音楽の既存のジャンルを混乱させる意図で皮肉っぽく表現した」と当時の彼は語っている。南米育ちのフランス人らしく、かなりユーモアが効く人物なようだ。

デジタルとアナログの統合

彼の音楽家としてのキャリアは、メタルバンドのドラマーがスタート。「力強く演奏されるパワーメタルが音楽表現の限界を超えさせてくれた」とCruz(クルーズ)自身は語っている。彼の得意とする「原始×電子」はどうやら「南米の原始ドラム×メタルドラム」のリミックスが原点らしい。

デジタルサウンドとアナログサウンドが相反して対立しつつある現代の音楽業界で、その中間を生み出し統合させた彼は世界的に多大に評価されている。

彼がドバイツアーに初めて行く前に答えたRedBull主催のインタビューでは、彼自身、自分のクリエイションについて核心を突いた言葉で語っている。

僕はエレクトロサウンドを使うけど、作る音楽は全てアナログ。違いは楽器を変えたってことだけ。従来のアコースティックなやり方や、ミュージックスクールで習う内容には、実験的音楽の広がりの幅という意味で限界があると思う。全く新しい曲の構成やサウンドデザインを発見した時、はじめてゲームのルールが変わるんだ。

Nicola Cruz(ニコラ・クルーズ)(RedBull主催のインタビューより)

南米音楽からの強い影響

彼の音楽は南米からのインスピレーションが強く感じ取れる。エクアドルの首都キトで3歳から育った背景が彼に大きく影響を与えているらしい。特に大自然の中で感じられる昼夜のコントラストや、オーガニックなサウンドは、 Cruz(クルーズ)の奏でる音楽では欠かせないルーツだ。難しいコントラストが強いリミックスを、オーガニックに自然体として表現する彼の天才的なテクニックは一体どのようして生まれてくるのだろう。

僕のクリエイションで最も大切なのは、理想のアイデアとその背景を自分の中で良く詳しく理解すること。例えば、南米コロンビアに昔からある「クンビア」って伝統音楽を演奏したいとする。そうすると、一体どの「クンビア」を演奏したいのか最初に知る必要がある。分かる?「クンビア」って簡単に言っても、コロンビアの太平洋地域のものなのか、南部のものなのかで全くビートが違うんだ。そこから調和を計算する。オーガニックの性質は、正真正銘の自然発祥でないと成り立たないでしょ?先住民音楽と電子サウンドをミックスさせた作曲は、すでに多くのアーティストが挑戦している内容だけど、ただ知識があるだけじゃなく、本物を本当に経験して理解しておかないと僕のような演奏はできない。

「哀愁」と「楽しさ」二つの感情は僕が常に意識しているバイブレーション。ハッピーな気分と悲しい気分の中間点って何だと思う?僕の答えは「ミステリー」。まるで霧がかった森だったり日没の時間帯に数分間起こる不思議な光のイメージだ。自然のリズムがそう表現させるんだね。

Nicola Cruz(ニコラ・クルーズ)(RedBull主催のインタビューより)

音楽プロデューサー、そして新世界でのパフォーマンス

Nicola Cruz(ニコラ・クルーズ)はまた、音楽プロデューサーとしての顔も世界的に広く知られている。ニューヨークを拠点に活動する彼と同じくDJ、そして音楽プロデューサーのNicolas Jaar(ニコラス・ジャー)とは2012年のコラボレーションで共に活動し、一気に注目を集めた。個性がぶつかりやすい他のアーティストとでも、巧みに上手く交流をとる彼流の秘訣について、同じくRedBull主催のインタビューで語たられている内容をご紹介したい。

-どうやってコラボレーションする他のアーティストたちを見つけるのですか?その中に共通点はありますか?

彼らは基本的に、僕が個人的に音楽家としてのエゴとエゴとがぶつかり合うリスクを負ってでも関わりたいと思う、度肝を抜かされるアーティストたちばかりだ。良い意味で、摩擦が起こるのは彼らが僕に刺激的な何かを提供してくれるってサインでもあるからね。

 

-日本やドバイ、世界中様々な土地でパフォーマンスをされていますが、南米文化とあまり関わりのない新しい土地に立つたび緊張されますか?またセット作りのアプローチもそこで変わりますか?演奏する土地の伝統音楽とは全く違う音楽を持って行く前に何かCruz(クルーズ)さん的な戦略はありますか?

緊張はもうあまりしなくなった。自分の感覚を自由にそして柔軟にしておかないと、どこでも良いパフォーマンスはできない。全てはライブ、生き物はみんな同じ有機物だ!何とか絶対なるようにできている。もし、僕の奏でる音楽とは相性が合わないなって感じられた、現地特有の違うバイブレーションがあれば、自然にそれに合わせれば良いだけ。音楽はユニバーサルな言語だよ。僕のライブでは、フランス語やポルトガル語、日本語でのコミュニュケーションは必要無いんだ。

Nicola Cruz(ニコラ・クルーズ)(RedBull主催のインタビューより)

南米の原始的なフォークミュージックを21世紀に持ち込んだ、エレクトロサウンドの奇才。自身の実経験が彼のサウンドをより本物にする。彼の奏でる音楽は、言葉の壁を越えたユニバーサルコミュニュケーション。大胆奇抜なアーティストNicola Cruz(ニコラ・クルーズ)の今後の活動に期待したい。